風の便り
2020.02.14 日々

40年越しのコート

母が突然、『このコートどう思う?』と尋ねてきた。

 


 
見ると、ブラウンでもなくベージュでもなく、
ちょうどその間とも言える絶妙なカラーのコート。
シンプルなデザイン、そして丈の長さ共に絶妙。
素材もウール100%。
いいかんじ、素敵。
 
ん?で、このコートは一体どうしたのだろうと思い、『で?』と私が尋ねると、『いやいや、だからどうかって聞いてるのよ』と。
頑なにそれ以上を口にしない母。
私は思ったままの感想を伝えると、フッとそれまでの緊張感から解放されたかのような表情の母。
新しく購入したものとばかり思っていたら、このコートの背景には意外なストーリーが…
 
なんでもその昔、それこそ母が二十歳ぐらいの頃、お店で気に入って選んだ一枚というから驚きです。
となるとこのコート、かれこれもう…40年くらい前のモノ!?
にしては状態がすごく良い。
でも今になってなぜ。。
 
母曰く、当時すごく気に入って購入し、ずっと大切に着ていたものだとか。
たしかにウール素材にも関わらず虫食いもなく、なめらかな肌触りはとても心地が良い。
愛着もあり、お手入れも怠らなかったという。
そしてやがて子供が生まれ、子育てが始まると共に、着るものは “おしゃれ” から “実用的なもの”へと移り変わり、
このコートはその後、何十年もの間、母のクローゼットでひっそりと時を刻むことに…
 
それが今、再び息を吹き返す時がやって来たのです。
 
母は、近年の私の着るものを見て、なんとなく自分の若い頃と通づるものがあると感じていたそう。
大切に着ていたこのコート、いつか自分の娘にも…という思いはあったものの、好みが違ったら押し付けな行為になってしまうと、ずっと出せないままでいたと言う。
ただ、今の娘なら色やデザインもきっと気にいるのでは…?
そう思いようやく私の目にも触れることに。
 
母は、あなたがいいと思うなら着てもらっていいし、気に入らないなら無理して着る必要はないと言った。
感覚的に、素敵!と思った私はむしろ譲りもらえることに喜びを隠せなかった。
『明日着ていく!』
と、咄嗟に出た言葉がそれでした。
まさか何十年もの前の服を、今になって娘が着てくれるなんて思ってもなかったと、母もまた驚きそして喜んだ。
 

 
近頃の私は、このウールコートに袖を通す日々が日常になってきた。
ただ単純にコートが手に入ったから嬉しいというのではなく、”母から譲り受けたもの” ということにいちばん響くものがあった。
そして一番驚いたことが私以上に母が喜んでいたということ。
自分が遠い昔に大切に着ていたお洋服を、今度は娘が着てくれているということに相当の喜びを感じていた。
そんな母の姿を見て私もまた嬉しくなり、こういう連鎖いいなぁ…となんとも言えない充実感に。
 
時代を越えて、私より時を刻んできたコート。
再び日の目を浴びることになって、動揺してはいないだろうか。笑
久々に見る外の景色はどう?
久々に触れる外の空気はどう?
 
世代を越えて、大切に受け継がれていくお洋服。
ふと、風の栖のお洋服もそんな存在になれたらと、コートに身を包みながら感じるものがありました。
お金では買えない、言葉では語り尽くせない、そんな思い出がいっぱいに詰まった大切な一枚に、
そんな存在になれたら、私たちスタッフにとってこれほど嬉しいことはありません。

 
staff22_iwasaki
(イワサキ)


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